ワイン・レッド
ドアを開けたライルの目に飛び込んできたのは、ドレスアップした刹那とティエリアだった。
「……凄いな」
思わず感嘆の溜め息がこぼれる。それをティエリアがふん、と鼻で笑った。
「当たり前だ」
まるで女王様の様な言い様と表情。普段と変わらない仕種なのに、こうも印象を変えてしまうものかと驚いた。
すらりとした細身に紅いドレスがよく似合っている。肩や腕や背中の肌を惜しげもなく、露出している。どうやったのか不明だが立派な胸がついていた。それよりもライルが気になったのは、バックラインがよく分かるデザインだ。脚の際どい部分まで露出してしまうようなデザインよりも艶っぽい。
髪は、彼の髪と同じ色の腰までのストレートヘアのウィッグをつけている。ウェーブヘアよりもこのストレートはドレスに合っていると思った。
ぼうっと見とれていると、急にティエリアがライルを睨んできた。こちらを向いた顔に、うっすらだが化粧が施されていた。十分に魅力的なまなざしは更に威力を増しているし、唇も煌めいている。
「何か?」
じろじろと見られた事が不快だったらしい。
「……いや、別に」
そうやって不快そうな表情を浮かべているのを見ても可愛いと思うのは、ベッドを共にしたせいだろうか。
普段はろくに言葉を交わさない二人だが、何故だかベッドを共にする。最初はライルが投げ付けた冗談から始まったのだが、これがまたおかしなもので今も続いているのだ。
言葉で表すなら完全なセフレだ。互いに惚れた腫れたの一言もない。
(……それにしても)
目の前の『女性』は作り物だと分かっているのに目の毒だ。腕や肩の露出している部分も直視出来ないがそれ以上にライルが気になってしまうのは、腰から脚までのラインだ。胸のように『偽物』ではなく、本当に彼が持っているラインだと知っているので余計気になるのだ。
(……バックでやる時に見てるからか?)
夜の顔しか知らないライルは、普段の顔と照らし合わせようとしても浮かぶのはベッドでの彼ばかりだ。不謹慎だと自分でも思うが、比率で言うと断然に夜の顔ばかり知っているので昼間のティエリアが思い浮かばない。
「……行くぞ、刹那」
「ああ」
ドレスの裾が舞ったかと思うと、一瞬のうちにティエリアは刹那と共に出て行った。
ミッション開始の時間が近付いていた。
「みんな、それぞれ持ち場について」
スメラギの合図でそれぞれが動き出す。ライルは自分の持ち場を思い出す。アレルヤと一緒に二人の後について行かなければいけない。急いで向かおうとすると「ロックオン」と呼び止められた。
「何ですか?」
呼び止めたのはスメラギだった。複雑な表情を浮かべている。
「……余計なお世話だと思うんだけど」
視線を泳がせる怪訝な顔をしてみると、観念したように溜息をついた。
「あんまり、あからさまな顔で見てると、ティエリアじゃなくたって怒るわよ」
その言葉の意味が分からなくて、ライルはほかんとしてしまった。スメラギはそれ以上はなにも言わずに、出て行った。
「気づいてなかったんだね」
アレルヤが声をかけてくる。
「どういう事だ?」
「視線がいやらしかったって事じゃない? ……さあ、僕らも行こう」
促されて、ライルは部屋を出た。自分で気がついていないところで、ライルはティエリアに嵌っていた。それに気がつくのはもう少し後になる。