What 'bout my star?
「こんなものか」
 姿見に自分を映す。
 そこには赤いドレスを着た女性が立っていた。マーメイドラインの胸元が大きく開いたドレス。最初、このドレスを見た時に自分がこんなものを着るのかと驚いたが、想像したよりも見た目の違和感はなかった。着替えを手伝った女性陣も満足そうな表情をしている。
『女性の姿で?』
 スメラギからの指示は、女性の姿になってパーティに潜入するというものだった。ドレスを着なくてはいけないと言われて、テルエリアは勿論反抗した。
『なぜですか? スーツで行けばいいでしょう』
『駄目よ。ガンダムマイスターは男性だと向こうには思われているの。万が一の事の事を考えると、変装もしないで敵の陣地に入りこんでいるのはとても危険よ。もし、取調べがあったらどうする? もしかしたら、女性ってだけでその取調べから逃れられるかも知れないわ。……そんな事がなくたって、女性になるだけで相手の警戒心は弱まるけど』
 つらつらと利点を述べられた以上、従うしかない。ドレスを着るのに精神的な抵抗はあったが、着てしまえばそれまでだった。ただ問題は、ティエリアの体のつくりと服のデザインの不一致だった。
 開いた胸元はどうするのだろうかと思っていると、特殊メイクのようながものつけられた。ぱっと見、本物との見分けがつかない。表面は本当の肌と感触が同じだ。
 肩にかかる長い髪も、薄く施された化粧も、普段の自分からは想像が出来ない代物だ。
 鏡の中の人物が、自分なのだと分かっていても現実味がなかった。
「アーデさん、綺麗ですぅ」
 なにかにつけ感情をあらわにするミレイナの目はきらきらしている。フェルトとスメラギは、ミレイナの隣で満足そうな顔をしていた。
「ティエリア、準備は出来たか?」
 ティエリアと同じく、潜入行動に入る刹那は運転手の姿をしていた。ティエリアの様子を見にやってきたらしい。刹那の後に続いて、ハレルヤとライルもやってきた。三人の表情が止まる。
「ああ。大丈夫だ」
 振り返ると、面白いくらい三人とも同じような表情を浮かべていた。感嘆しているらしく、誰も話し出そうとはしない。
「さあ皆」
 メイク道具を片付けたスメラギが顔を上げる。
「作戦行動に移るわ。各自持ち場について」
 その一言でクルーは慌しく部屋から出て行く。取り残されたのは、ティエリアとライルだった。何ですぐに出て行かなかったんだと、ティエリアは舌打ちしたくなった。
「君も早く持ち場についたらどうだ?」
 普段から、ティエリアはライルを避けている。無意識の行動だったが、それは確実に不自然だった。
「すぐに行くさ」
 言葉とは逆に、ライルはドアから遠ざかる。ティエリアに近づいてきた。
「な、なんだ」
「凄いな、これ」
 喩えるなら肩に触れるような気楽さで、ライルがティエリアの胸に触れた。
「っ!」
 とっさの事で、ティエリアはどう反応したらいいのか分からない。思考回路が停止する。
 感触を確かめるように、ゆっくりと揉まれる。別に自分の肌に直接触れてはいないが、気分的には十分触られている気分だった。自分の胸が目の前で揉まれているのを見て、平常心でいられるひとの方が少ないだろう。
「本物みたいだな」
 触り心地を存分に楽しんだのか、胸から手が離れていく。
「……っ!」
 我に返ったティエリアは、ばしんとライルの頬を叩いた。反射に近い攻撃だったので、ライルは避け損ね、まともに攻撃を受けた。
「痛っ!」
「あたり前だ。僕に気安く触れるな」
 動けなかったとはいえ、ティエリアはライルに簡単に許してしまった自分が許してやれなかった。 その怒りを直接受けたライルへの攻撃はかなり力が入っている。
「愚かな事を考えていないで、早く持ち場に着け」
 捨て台詞を投げて、ティエリアは出て行く。頭から湯気が出ているのが見えそうだ。
 ライルは頬をさすりながらティエリアを見送った。
「かーわいいの」
 ライルはティエリアが自分と距離を置こうとしているのに気がついている。ライルを嫌って、というより困惑する気持ちが多いのも察する事が出来た。事実、ライルを見るティエリアの瞳はいつも揺れている。それに気がつかないほど、ライルが愚鈍ではない。
「さて、俺も行くか」
 スメラギからお叱りの言葉が来る前に、ライルも自分の持ち場へと向かった。

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