体温
 ぶるりと肌寒さを感じた。意識は泥のように重いままで、起きる気はしなかった。ティエリアは近くに温かいものを感じて、それに身を寄せる。頭上でくすりと笑うような声が聞こえたが、それがなにか判断するまでには至らなかった。

「……かーわいいな」
 睡眠時間をそんなに必要としないライルは、起きてはいないものの目は覚めていた。
 まだ起きるには早い時間だったという事もあり、ベッドに横になったままでいた。傍らにはティエリアがいる。
 普段なら『用事』が終われば自室に帰ってしまうのに、今日は違っていた。意識を失うように眠ってしまったのだ。起こす理由もないライルはそのままにしておいた。
 同じベッドで寝ていたティエリアが、ライルにくっついてきた。寒かったのだろう。その証拠に、ティエリアの体温はライルのものより幾分低く感じられる。
 眠っているティエリアを観察する。普段は引き閉まった固い表情をしているが、さすがに眠っている時は違った。あどけない表情で可愛い寝息を立てている。幼く見えた。なかなか懐かない野良猫が、初めて自分から近づいてくれたような嬉しさがある。
 熟睡しているのだろうと踏んで、肩を引き寄せる。ティエリアはライルの首筋に顔を埋めた。
「……いつもこうだったら、いいのにな」
 思わず、独り言が出てしまうくらい普段のティエリアは冷たい。他のマイスター達もライルに対して少し退いて接している事は分かったが、ティエリアはそれ以上だ。退いているどころか壁が出来ている。
 自分に対しての対応をライルはおかしいとは思わない。仮に自分が彼らの立場だったら同じ事を感じていただろう。もっとも、それを隠すくらいの器用さは持ち合わせているが。
 でも、ティエリアだけは納得出来なかった。
「体は許しても心は許さないって、どんな三文小説だよ」
 ライルの前で積極的に愛撫を欲するのに、ティエリアは決して心を許さない。『用事』が終わるとすぐに帰ってしまうのもそのためだろう。ライルはそれを歯がゆく思う。決して自分から声をかけていて欲しいなんて言えない。今まで上手く世渡りをしていた自分からは考えられない不器用さだった。
「……もっと」
 もっと、ティエリアが欲しい。体だけではない。心も、心も知りたい。
「……目の前の人間を見ろよ」
 肩を抱く力が自然と強まる。気がつくと、何かから守るように、両手を回していた。
 もしかしたら、夢の中で本当に会いたい人と会っているかもしれない。けれども。
――現実では、自分の腕の中にティエリアがいる。
 彼の体温を感じながら、ライルは祈るように目を閉じた。ほんの一時の独占を噛み締めながら。

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