しがみつく
  背後に人の気配がした。ロックオンはすぐに気がついたが、目を閉じたまま眠りの中を漂っていた。別に起きる必要がないからだ。誰が来たのかは分かっている。
 ――ティエリア、来たんだな。
 うつらうつらしながら、そんな事を考えていた。
 ロックオンの自室に入るための暗証番号を知っているのは、ロックオン以外にティエリアしかいない。以前、ティエリアが夜中にロックオンの部屋の前で座り込んでいるという事があり、その時、ティエリアは次の日に風邪を引いていた。体が冷えたから当たり前の事だろう。
 風邪を引いたのも気にかかる事のひとつだが、もしかしたら今まで気がつかなかっただけで、こういう事が何度かあったのかもしれない。そう思うと、ロックオンは気が気ではなくなった。
『いつでも来て良いからな』
 そう言って暗証番号を教えた。ティエリアは不機嫌そうな顔で答える。
『教えてくれたってしょうがないでしょう。あなたがいない部屋に行ってなにをするんですか』
『いる時にだって、入ってこればいいだろ?』
『いる時なら、あなたが開けてくれればいいじゃないですか』
『いても開けられない時があろうだろう?』
 ティエリアは不思議そうに小首を傾げた。
『俺が寝ている時だよ。いつでも来ていいからな』
 先日の事を思い出したのだろう。ただでさえ不機嫌そうなティエリアの顔が更に不機嫌そうになる。
『もう、あんな非常識な事はしません』
『別に揶揄してるわけじゃねえよ』
 かたくななティエリアが簡単に納得するはずがなかった。もっともらしい理由をロックオンは考える。
『俺が恐い夢を見えうなされたら、起こしてもらえるんじゃないかと思ったんだ。ただそれだけだ』
 即席でもっともらしい理由なんて浮かばない。
 結局、ティエリアは不機嫌な顔をしたままだった。その時は、それが受け取ってもらえたのか分からなかった。しかし、今ロックオンの部屋へやってきたという事は受け取ってもらえたのだと思っていいイだろう。
 気配はロックオンのベッドのあたりを行ったり来たりしている。すぐにでも腕を引いてベッドの中へ入れたい衝動に駆れたが我慢した。タヌキ寝入りをしたまま、後ろの気配を探る。
 ゆうに十分は経ってからだった。やっと気配がベッドの上に上がってくる。ブランケットの中に入り込んだ。本当は抱きしめたいけれど、それも我慢する。
 自分よりも少し低い体温が背中にくっついてくる。そこでやっとロックオンは一息つくことができた。気分は野良猫を少しずつ慣らしている様な気分になる。
 やっぱり本当は抱きしめたいけれど、我慢しておいた。
 欲張ってはいけないからだ。

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