恋人はサンタクロース
「ん……」
 腹のあたりに重みを感じてロックオンは目を覚ました。暗闇の中で目を凝らしてみると、確かに自分の腹あたりに黒い影が見える。金縛りかと思い、どきりとした。
「……オン」
 か細い声が聞こえる。耳慣れたその声にロックオンは耳を傾けた。
「ロックオン」
 ティエリアの声だった。どうやらティエリアがロックオンの腹の上に馬乗りになっているらしい。ロックオンはティエリアが自室にいる事に驚かなかった。ティエリアは部屋の暗証番号を知っている。以前に教えておいたのだ。
 暗くては分からないので、ロックオンは手元の間接照明をつけた。ティエリアが浮かび上がる。
「ティエリア……その格好」
 暗闇から浮かび上がったティエリアは普段の格好をしていなかった。キャミソールタイプの裾の短い赤いワンピースを着ている。あまりに裾が短い上にローアングルで見ているので中が見えそうだ。スカートからすらりと伸びた脚も目の毒だ。思春期の少年のようにドキドキしてしまう。
 ティエリアがしているのは、サンタクロースの格好だった。サンタのおじいさんがするような野暮ったい格好ではない、ミニスタサンタの格好だ。
 ロックオンは、なんでそんな格好をして夜中にやってきたのだろうと、頭を抱えたくなった。更に言うなら、ティエリアはロックオンの上に乗っかっている。ティエリアの思考回路が理解出来なかった。
「どうした?」
「あ……えっ、と」
 彼にしては珍しく歯切れが悪い。訝しく思ったが、ロックオンは辛抱強く待った。ティエリアから話を聞かなくてはどうしようもない。
「先日、スメラギ・李・ノリエガに貰ったんです」
 ポツリとティエリアは白状した。
「その服をか?」
「ああ」
 どうしてそんな服を渡したのだろうかと思ったが、何となく楽しんでいるスメラギの姿が浮かんだ。あの人は愉快犯だ。分かって絶対やっている。
「それにしてもどうしてこんな夜中に来たんだ?」
 ローアングルでティエリアと顔を合わせるのが辛くなってきて、ロックオンは体を起こす。ティエリアの体を抱きしめながら、ブランケットをかけた。腕や肩が冷えている。
「サンタクロースと言うものについて調べたんです」
 ブランケットの中でティエリアはロックオンに身を寄せてくる。仔猫のような動きに頬が緩みそうだ。
「夜中にプレゼントを配る人だと書いてありました。この衣装を渡されたという事は夜中に来なくてはいけないのでしょう?」
 どうやら衣装を意味をティエリアは真剣に受け取めて調べたらしい。
「そうだな」
 ぎゅっとティエリアを抱きしめる。
「でも、サンタは皆のところへいくものだろ? どうして俺のところに来てくれた?」
「スメラギ・李・ノリエガが他のところへは自分で行くから、ロックオンだけ行って欲しい、と」
 戦術予報師は先回りをしてたらしい。ロックオンは内心で舌を巻いた。
「じゃあ、サンタさんは俺に何を持ってきてくれたんだ?」
「………それは」
「それは?」
 心なしかティエリアの頬が赤い。
「バカな事を言ってる自覚はありますよ! でも本当に、何も思いつかなかったんです。プレゼント。思いついても買いに行く事はできないし。仮に行く事が出来ても、やっぱり見つけれないと思うので」
 呼吸困難なるんじゃないかと心配したくなるくらい早口でまくし立てる。
「あの……あなたが、言ってくれたじゃないんですか」
 ティエリアの唇が震えている。
「僕が、いてくれるだけでいいって。……だから」
 ティエリアが続きの言葉を紡ぐのも待てなくて、ロックオンはティエリアを抱きしめた。
 可愛い事を言ってくれる。
「ロックオン?」
 覆いかぶさるように抱きすくめられてティエリアは不思議そうな声を上げる。
「ティエリア、ありがとう」
 額にキスを落とした。続いて頬にも。どんなにキスをしても、し足りなかった。愛おしさがこみ上げてくる。
「じゃあ、遠慮なく貰うよ」
 今度は唇に。柔らかい唇を吸って舌で口腔をまさぐる。キスの合間に聞こえる吐息がロックオンを熱くする。
「はあ……ん」
 かけていたブランケットは早々にどこか行ってしまった。けれどそんな事を気にする余裕もない。
「んんん……」
 キスの合間にもロックオンの手はティエリアに悪戯をする。スカートの中へ手を入れて、脚を撫でた。肌理の細かい肌が手に馴染む。ゆっくりと撫でて、数え切れないくらいキスをした。ティエリアの瞳が氷が蕩けたように潤む。
「ん……」
 唇を滑らせ、首筋を辿りる。ワンピースは前開きのデザインで、ボタンをひとつ外せば、すぐに胸の尖りが現れた。淡い色をしたそれを口に含む。
「あっ、」
 舌で舐め上げて、唇で啄ばむ。熱心に愛撫を施していると、段々芯を持ち始めた。触れていないもう片方の尖りも。そちらは手で弄りながら愛撫を続けた。
「やっ、んんん…あっ」
 甘い声ですすり泣くティエリアを見ていると、もっと乱したくなる。ロックオンは乱暴にティエリアの脚を持ち上げた。
「やっ! ま、待って……」
 ティエリアの静止も聞こえない。裾から覗いている彼の欲望は既に熱くなっていた。片脚を肩に乗せて、いささか乱暴な愛撫を施す。彼の欲望を高め、自分もそれを共有出来るようにと彼の体に準備を施す。
 甘い眼差し。甘い肢体。甘い肌。甘い声。全てがロックオンをおかしくさせる。
「ん……もう」
 涙で濡れた目でロックオンを見る。気持ちが急いてしまって、互いに服を着たままだ。しかし、それどころではない。
「いくぞ……」
 自分を彼の中に入りこませようとする。一番大変なのは、いつも彼の中へ入ろうとする瞬間だ。ティエリアの呼吸を見計らって、腰を進めた。
「んっ……」
 ティエリアの眉間にしわが寄る。いつも本当に申し訳ないと思う。せめて痛みが軽減されればいいのにと思い、彼の眉間にキスを落とした。目のふちを舌で辿り、涙を拭う。
「はっ、あっ、ん」
 不自然な呼吸をするティエリアを慰めながら、奥まで進む。熱くて狭い粘膜の中は、とても気持ちがいい。
「ティエリア……大丈夫か?」
 体を繋げているのに、感覚を共有しているのに自分だけが気持ちよくてはいけない。ティエリアの顔を覗き込む。
「大丈夫、です」
 少し苦しそうだが、それよりもティエリアの瞳は欲で濡れていた。心が疼く。
「動くぞ……」
 はじめはゆっくりと。そして段々早く。
「あっ、ん……ロック、オン」
 肩にしがみついている手に力が入る。腰の動きは止めないままティエリアに問う。
「どうした?」
「んん……もう、もう」
 彼の欲望からとろりと蜜が零れていた。限界まできているのだろう。余裕があるように見せかけているが、ロックオンとて余裕はなかった。本当は今にでも乱暴に揺さぶって達してしまいたいが、乱れたティエリアをまだ堪能したかった。はぐらかすように腰の動きを緩める。
「あっ、」
「どうしたんだ?」
「やだ……いやだ、ロックオン」
 聞き分けのない子どものようにティエリアが首を振る。普段のすました彼からは想像出来ない姿だ。
「どうしたんだ? 言ってくれなきゃ分からない」
 恨めしそうな目でティエリアが睨む。そんな顔をしても可愛いだけだ。
「……ロックオン」
 途方にくれた声で名が呼ばれる。それでもはぐらかすと、焦れたティエリアが拙いながらも腰を動かした。
「ん……」
 ゆらりと動く脇から臀部にかけてのライン。生々しい腰の動きにロックオンの欲望が一気に膨れ上がる。
「お、大きくなった……」
 目を瞠るティエリアは自分がきわどい事をいった自覚がない。
「お前……」
 ロックオンの頭の中はもう真っ白だ。どうにでもなってしまえと乱暴に腰を動かした。
「あっ、んんん! ロ、ロックオン……」
 驚いたティエリアが肩から手を外す。宙を舞った手はシーツを握り締めていた。
「ふっ……ん、はっ、あ、ん!」
「……くっ」
 互いに、欲望が弾けるのはもう時間の問題だった。


「あら、ロックオン」
 角を曲がると偶然にもスメラギに出くわした。
「ああ、ミス・スメラギ」
「どうだった? 昨日は」
 意味ありげな視線を投げつけられる。愉快犯の確信犯は本当に嬉しそうだ。
「……あー、ああ」
 ロックオンは言葉を濁す。少なくともあけすけに言いたくはない。その態度にスメラギは不満そうな顔をしたものの、すぐにさっきの表情に戻った。
「よかったわ。楽しめたみたいね」
 確信した様子にロックオンは首をひねった。スメラギが自身の首を指差す。
「分かりづらいけど、首に引っかいた後があるわ」
「……あーこれは地上に降りたとき、たまたま野良猫に……」
 誰が聞いたって確実に嘘の話をでっちあげる。無駄な足掻きと分かっていても言わずにはいられない。
「ずいぶんと大きいネコね。かなり長く線が入っているわ。顎下から鎖骨まで」
 一枚も二枚も上手のスメラギはさらにその上を行く。猫には到底入れられない大きさの傷だった。
「あ、ああ」
 それしか、ロックオンは言えなかった。

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