ノスタルジー
 

『沙慈』
 名前を呼ぶと彼は振り返った。いつもの、少し困ったような優しい笑みだ。その表情を見てルイスは安堵する。ああ、私の知っている彼だ。優しくて、優柔不断で、恥ずかしがり屋の。
『ルイス』
数メートル前を歩いていた沙慈がルイスの下へやってくる。ルイスは沙慈の元へ飛び出して腕を組む。
 恥ずかしがり屋の沙慈は決して自分から腕を差し出したりしないけれど、ルイスが腕を巻きつけても少しだけ頬を赤くするだけで文句は言わない。本当に恥ずかしいだけなのだ。そんな沙慈を見ていると、幾分もの足りない気もするがルイスの心はほっこりと温かくなる。この温かさをくれるのは、沙慈だけだ。ルイスはいっそう力を強めて、腕を組んだ……。
 ――ピピピピピピ
 耳元で電子音がして、ルイスは目覚めた。すぐに起きて、身支度をしなくてはいけないと思っていても起きる気がしなかった。
 見ていた夢は思い出せないけれど、ふわふわとした柔らかい夢を見ていた気がする。頭がぼうっとしてしまってすぐに行動を起こす気が起きなかった。
「起きなきゃね」
 ひとりごちて、ルイスは上体を起こした。顔を擦ると、指に水滴がつく。
「なに、私……」
 夢を見て泣いてたの?
 覚えてもいない夢でないていたなんて、ルイスにとっては屈辱だった。
 私は、自分は軍人なのに、そんな弱いことではいけない。どんな事があっても動じてはいけない。どんな事があっても振り返ってはいけない。そうやって、過去に自分自身と約束した。
「私は」
 目を擦って涙を拭き取る。その後、祈るように指を組んだ。
「私のパパとママの仇をとるんだ」
 ひとりぼっちになってしまったルイスにとって、平凡な日常は目を背けたくなるようなものだ。幸せだった――その時は幸せだと気づいていなかった頃の事がさまざまと思い出させられる。思い出されるからこそ、今まで全く縁のなかった軍隊に身を置いているのだった。
 ルイスは、軍隊には仇討ちのために入ったと思っている。しかし心の奥底には、日常から逃げたいという欲求があったのだ。ルイス本人は気がついていないだけで。
 ピピピと再び電子音が鳴る。ルイスはベッドから立ち上がった。
 顔を洗うと、そこにはわがままで寂しがり屋のルイス・ハレビィではなく、いち軍人のルイス・ハレビィがいた。

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