無自覚
 
無邪気というのは可愛らしいような気がするが、実のところ、とてもタチの悪いものなのではないのかとアレルヤは思う。

 これで五人目だ。
 用が済んで店を出た瞬間、外にいたティエリアに話しかけている男を確認して、アレルヤは溜息を付きたくなった。
 地上ミッションのため、アレルヤはティエリアと共に地上へ来ていた。
 計画には余裕を持った時間設定がなされている。ミッション開始時間まで結構あるので、待機していてもよかったが、宇宙にいる時にはままならない買い物をしようという事になったのだ。基本的なものは支給されるが、個人的なものになってくると自分で手に入れなくてはいけない。
 ――これで五人目だよ、アレルヤ。
 ――ははっ、眼鏡のヤツ、モテんだな。
 ――笑い事じゃないよ、もう。
 ティエリアに話しかけてきた男は、現在話しかけているのも含めると今日だけで五人だ。さすがに立て続けに二人話しかけられた時点で、ティエリアから離れないようにしようかとも思ったが、ティエリアがそれを嫌うし本人に自覚がないので実行出来なかった。アレルヤと少し離れているだけで、すぐ声をかけられていると言うのに。
アレルヤはティエリアに近づく。ティエリアもアレルヤに気がついた。
「アレルヤ・ハプティズム」
「ティエリア、お待たせ」
「用はすんだのか?」
「うん。……えっと、そっちの人は?」
 男はアレルヤの顔を見た途端、落胆した顔になり忌々しそうな目でひと睨みした。そして何も言わずに去っていく。
「あ」
「あの人、どうしたって?」
「道が分からないから教えて欲しいと言われた。俺も分からないからと言ったのだが、一緒についてきて欲しいと言われて……」
 典型的なナンパだ。この手の事はまるで定型文があるかのように、使い古された言い方が使われる。一種の符号のようなものなのだろうか。
「道が分からないのに、よかったのだろうか?」
 心底不思議そうにティエリアは呟いている。真相を教えた方が今後のティエリアのためになるよな気がしたが、知ったティエリアが怒りそうなので止めておくことにした。
「いいんじゃない? 自分で行ってしまったんだし」
 アレルヤは適当な返事をして、それ以上は話をしなかった。ティエリアもさほど気になっていなかったらしく、その話はすぐに終わった。
「君は他に何か必要なものはあるか?」
「僕はもう大丈夫だよ。ティエリアは?」
「俺ももういい。そろそろ時間だ、戻ろう」
 颯爽と歩くティエリアに、アレルヤも続いた。歩調を合わせて隣を歩く。
今回、街を一緒に歩いていて気がついたのだが、ティエリアとすれ違った結構な人々が振り返っている。それくらい印象的な顔だし、そのくらい整っているという事だ。世間をよく知らなくても、それくらいは流石に想像が出来た。
振り返ってはアレルヤを見て、大抵の男が溜息をついている。おそらく女性だと思っているのだろう。
「どうかしたのか、アレルヤ・ハプティズム」
「ううん、別に」
 確かにティエリアは美しいと思う。普段から見慣れているせいで、そういうものだと認識しているから普通だと思ってしまうが、確かにこうやって外に出てみるとティエリア程の容姿に恵まれた人間にあう事はない。
 ただ悲しいかな、ティエリアの表情はあまりに少なくて、その容姿を生かしきれていない気がした。それをもったいないとアレルヤは思う。
「ティエリアはキレイだよね」
思わず考えていた事が口に出てしまった。あ、と思わず口に手をあてたけれど、出た言葉が戻るなんて事はない。
「君は」
 ふ、とティエリアが口元を緩めた。それだけで、冷たかった表情ががらりと変わる。周りが華やいだような笑みにアレルヤの胸はどきりと音がした。
「殴られたいのか?」
 華やいで見えたのは目の錯覚だ。ティエリアは絶対零度の笑みでアレルヤを見上げてきた。
「う、ううんっ!」
 凄い勢いでアレルヤは首を振った。ティエリアが自身の外見の話が嫌いなのを知っている。ティエリアは外見などには興味がないし、その話で回りが沸き立つのが理解できないようだ。外見に興味がないからこそ、外見に惹かれてくる人間を想定できないのだろうけれど。
「そうか、それなら二度とそんな話は口にしたい事だ」
 本当は切々とティエリアの美貌について賛美し、注意を促がしたかったけれど、押しの弱いアレルヤには無理なミッションだった。


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