唯一の居場所
 「おわっ!」
 夜半に目が覚めてしまい、喉の渇きを覚えたロックオンは水をとってこようと自室を出ようとした。が、いきなり何かに蹴躓いてしまった。
「なんだ?」
 ドアの前にある塊を見る。暗くてすぐには分からなかったが、ティエリアだ。
「ロックオン」
 どうやらティエリアはロックオンの部屋の前でうずくまっていたらしい。今も膝を抱えた状態でロックオンの事を見上げている。
「どうした、ティエリア?」
 ロックオンは腕を引いて、ティエリアを立たせた。体が冷えている。廊下に座り込んでいるのだから、当たり前だろう。急いで部屋に戻る。
「……どうもしないのですが」
 ベッドに腰掛けされたティエリアは、どうにも歯切れが悪い。歯切れが悪いというよりは、困惑しているようにもとれた。ロックオンはティエリアの顔を覗き込む。
 ロックオンはティエリアの事をずっと無表情なヤツだと思っていた。しかし、最近そうではない事が分かった。出さないようにしているだけで、ティエリアは意外にも感情豊かなのかもしれない。
 覗きこんだ目元には、涙の跡があった。もしかして、と思う。
「恐い夢でも見たのか?」
 ティエリアは顔をゆるゆると上げた後、頷いた。ロックオンの読みは当たっていたようだ。
「そうか」
 ロックオンはティエリアの肩にブランケットをかけてあげた。一瞬、ティエリアの肩がぴくりと反応したがロックオンはそれに気がつかないふりをした。後ろからブランケットごと抱きしめる。
「冷えてるな」
 つめたい首筋。つめたい頬。ロックオンは指で確かめるように辿った。
「ティエリア。今日はここに止まってけ」
 まるでプロレス技をかけるように、ティエリアをベッドに沈めてしまう。後ろから抱きしめたまま二人でブランケットを被った。
「いいです。……僕は部屋に」
「いいから」
 個室に備え付けられたベッドは狭い。二人で眠るのは不可能に近かった。しかし、これだけ密着すれば出来そうだ。
「いいから。ティエリア俺のためにいてくれ?」
「どういう事ですか?」
「俺も見たんだよ。恐いから一緒に寝てくれ」
「そんなものに怯えるようには見えませんけど」
 ふっ、とティエリアは笑った。ロックオンからはどんな表情で笑っているのか分からない。けれど、きっとほっとした顔をしているに違いない。なんとなくだが、そう思った。
 しばらくして、ティエリアの寝息が聞こえる。眠った事に安心してロックオンも目を閉じた。
 ティエリアがどんな夢を見たのかは知らないが、彼にとってよくない夢ではある事は確かだ。もしかしたら、心の古傷をえぐるような夢だった可能性だってある。CBにいる時点で皆、大なり小なり心の傷を持っている事は多い。ティエリアもそのひとりなのだろうか。
 ロックオンはティエリアではないから、ティエリアの事は全て分からない。けれど、ひとつだけ分かった事がある。
 ――俺が一番なんだ。
 ティエリアが一番頼りにしているのは、ティエリアが困った時一番最初に思い浮かぶのがロックオンなのだ。
 嬉しくないはずがない。
 最初は野良猫のような、だれそれ構わず攻撃をしていた。その性格はすぐには変わらないが変わっている可能性はある。今のロックオンに対してのティエリアの行動は初めてあった時からは考えられないものだ。
 ロックオンは腕に力を込めた。この不器用な猫を抱きしめるために。

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