very berry happy birthday
 ロックオン→ニール ライル→ライル です。


「なんだ、これは」
 目の前に広がる白い小さな山。山の上には隙間なく赤い宝石が並べられていた。
「なにって、ケーキだろ」
 さも当然とばかりに、正面に座ったロックオンが言う。そうじゃないとティエリアは顔をしかめた。
「見れば分かる。僕が言いたいのは、どうしてこれがここにあるんだという事だ」
 今では宇宙空間でも、比較的普通の食事をする事が出来る。しかし、なんでも食べられるわけじゃない。特にケーキのような嗜好品に近いものは、調達する事が難しいはずだ。
「固いこと言うなって」
 後ろからひょっこり顔を出したのは、ライルだった。ティエリアは驚きをかくせない。
「なんで、君もここにいる」
「だから、固い事言うなって」
 すっとライルがティエリアの横に座った。にこにこと笑っているライルははっきり言ってあやしい。
「ティエリア」
 いつの間にかロックオンは席を移動してきていた。置いてあったフォークで頂にある苺を刺してティエリアの口元まで持ってくる。
「ほら、あーん」
 反射的に素直に口を開ける。ころんと苺が口の中へ入っていった。咀嚼すると、甘酸っぱい味が広がった。
「美味しいだろ?」
 こくりとティエリアは頷く。
 元々、食べ物には興味がなかったティエリアだが、ひとに合わせて食事を摂るようになってからは食べる事の楽しさが分かってきた。ケーキは決して嫌いじゃない。甘くて美味しいし、とてもきれいだ。
「俺と兄さんからのプレゼント」
「……プレゼントを貰う謂れはないが?」
 ライルの発言をさらりとかわす。そもそも、意味がよく分からなかった。
「あーもうっ! やっぱり忘れてる」
 ロックオンが憤る。どうしてだか分からなくて、ティエリアは小首を傾げた。
「ティエリア、お前今日誕生日だろ?」
「誕生日?」
 そういえば、そうだったかもしれない。年齢観念のないティエリアはすっかり忘れていた。
「教官殿、すっかり忘れてたんだな」
 はあ、と溜息をつきながら、ライルはフォークを苺に刺した。再び口元へ運ばれる。
「ん」
 ライルに馴れ馴れしくされるのが嫌でティエリアは顔を背ける。
 ロックオンと双子なだけあって容姿は似ているが中身は全く違っている。ティエリアの目にはロックオンのほうが誠実で、優しくて格好よく見えた。ただ単に、惚れた欲目であるのに本人は気がついていない。
「ほら、ティエリア」
 ロックオンが、今度は生クリームたっぷりのスポンジが口元へ運んだ。ティエリアはそれをひな鳥よろしく口へ入れる。その様子をロックオンは気にいったらしい。目を細めている。しかし、ライルはそれが面白くない。
「ティエリア、誕生日おめでとう」
 耳元で囁かれる。ティエリアは反射的に飛びあがった。
 囁かれたのもあるが、名前を呼ばれなれない相手に急に呼ばれてティエリアは驚いた。思わず咳き込んでしまう。
「大丈夫か?」
 ロックオンがドリンクを手渡す。ティエリアはひったくるように貰い、つまったスポンジを流し込んだ。
「だ、大丈夫……」
「ゆっくり食べればいいからな。……ライル、お前ティエリアを驚かすなよ」
 ロックオンはティエリアの背をたたきながら睨んだ。
「急に詰まらせるからこっちがびっくりしたぜ」
「そう思うならや止めろ」
 ライルの負けてはいなかった。ロックオンの手からフォークを奪う。
「あ」
「ほら、ティエリア」
 フォークがティエリアに手渡された。
「自分のペースで食べろよ。兄さんのペースで食べさせられるから詰まらせるんだ」
 詰まらせたのはお前のせいだと思ったが、言うのを止めた。いくらロックオンに食べさせて欲しくても自分の口からは言えない。
 ケーキにフォークを突き刺す。ティエリアはゆっくりと食べ始めた。甘酸っぱい苺と、ふんわりとした生クリームがとても美味しい。美味しいのだが、両方から頬杖をついてそれを観察される。落ち着かなかった。
「……じろじろ見るのをやめてくれないか?」
「無理」
「美味しいか? ティエリア」
「……」
 ちらりと横目で見ながら咀嚼を続ける。見られるのは鬱陶しい事この上ないのだが、ケーキに罪はない。黙々と食べ続けた。
「あ」
 ライルが顔を寄せてきたと思ったら、ぺろりと口元を舐められる。
「な、なにをするんだっ!」
「生クリームついてたから」
 悪戯がばれたような子どもの笑みでライルが答える。言えばいいのにと思っていると、反対側のロックオンがいきり立った。
「ライルっ! お前っ!」
「なんだよ」
「なんだよ、じゃない。俺のティエリアに手を出すな」
「いつ、兄さんのになったんだよ」
「最初からだ」
 口を挟んだのがまずかった。段々、雲行きが怪しくなってくる。間に挟まれたティエリアは気が気じゃない。
「最初からって……そりゃ知ってたけど、俺とはどうなるんだよ!」
「俺とはって……ティエリア、どういう事だ?」
「大体、兄さんが死んでしまうから悪いんだろ。……まあ、そのお陰でティエリアをものに出来たけど?」
 いつもなら、お前のものになったつもりはないと平手打ちをするところだが、ロックオンの怒気を感じて動けない。直感的に身の危険を感じて、ティエリアはケーキと共に逃げようとした。
「あ、待てっ! ティエリア」
 逃亡は叶わず、ふたりに両手をつかまれる。
「ティエリア、俺の方がいいよな?」
 必死に瞳を覗きこんでくるロックオン。
「ティエリア、俺ならお前を十分に満足させてやれると思うぜ」
「ぼ、僕は……」
 自分の心の弱さからふらふらした事を、本気で呪いたい気分になっていた。


                                     つづくよ。

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